横浜地方裁判所 平成11年(ワ)2123号 判決
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
一 請求
被告は、原告に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 事案の概要(1ないし4は争いがない)
1 原告は、平成二年一二月一日、被告との間で、次の生命保険契約を締結した(甲一)。
保険種類 「リード二一」定期保険特約付・終身保険(S六二)
被保険者 原告
死亡保険金受取人 B(原告の妻)
主契約 死亡(高度障害)保険金額一〇〇〇万円
特約 定期保険特約 特約保険金額(一〇年満期)二〇〇〇万円
保険料 月額二万八二一二円
2 原告は、平成八年四月九日、被告との間で、次のリビング・ニーズ特約を付加した(甲一の二、二ないし四)。
目的 将来の保険金の支払に代えて、被保険者の余命が六か月以内と判断される場合に、被保険者に対し、特定状態保険金を支払う。
3 原告は、平成九年一月一四日、横浜労災病院において、非ホジキンリンパ腫の診断を受け、同月二二日同病院に入院し、同年二月二七日開腹腫瘤摘出手術(脾臓、左腎臓、膵臓、胃、大腸切除)を受けた(甲五、一二)。
そして、原告の妻らは、同月二五日、主治医から原告の病状について説明を受け、原告の余命が三か月以内であることを告知された。原告自身は、そのことを同年三月中旬に知った。
原告は、その後化学療法を受け、これらの治療が奏功して幸にも一命をとりとめ、平成一〇年一〇月職場復帰を果たしたが、依然として数箇所の腫脹が残存しており、現在に至るも病気は完治していない。
4 原告は、平成一一年二月一七日、被告に対し、所定の書類(甲五)を提出して特定状態保険金一〇〇〇万円の請求をしたが、同年三月一〇日、被告から「原告の請求は特定状態保険金支払の要件である『被保険者の余命が六か月以内と判断されるとき』を満足しない」として支払を拒否された(甲七、一二)。
5 本件は、原告が被告に対して特定状態保険金一〇〇〇万円の支払を求めた事案である。
6 被告は、次のとおり主張した。
原告の請求は、「被保険者の余命が六か月以内と判断されるとき」という要件を満足していない。すなわち、原告は、平成九年二月二七日、非ホジキンリンパ腫により、横浜労災病院において、脾臓を中心とした腫瘤につき、開腹腫瘤摘出手術の施行を受け、その後同年一二月二五日まで化学療法を受けた。
右手術及び治療が成功し、原告は、現在では化学療法を受けておらず、一か月に一回外来、半年に一回CT(リンパ節用)を受けているのみで、食事も普通食を取るまでに回復し、職場復帰を果たしている。
主治医が、右手術の前に原告の家族に対し、手術しなければ三か月の余命だと告知したことはあったようであるが、幸にして右手術が成功し、右手術から今日まで既に二年半以上経過している。
三 争点に対する判断
1 乙二によれば、リビング・ニーズ特約条項中、主なものは、次のとおり定められている。
(特定状態保険金の支払)
「会社は、被保険者の余命が六か月以内と判断されるときは、会社の定めるところにより、特定状態保険金を特定状態保険金の受取人に支払います。」(一条一項本文)
(特定状態保険金の請求、支払時期及び支払場所)
「特定状態保険金の受取人は、特定状態保険金を請求する場合には、請求に必要な書類(① 会社所定の請求書② 会社所定の様式による医師の診断書③ 被保険者の住民票(ただし、受取人と同一の場合は不要)④ 特定状態保険金の受取人の戸籍抄本と印鑑証明書⑤ 最後の保険料払込を証する書類⑥ 保険証券)を提出して下さい。」(三条一項)
「特定状態保険金の請求を受けた場合、会社が必要と認めたときは、事実の確認を行い、又は会社が指定した医師による被保険者の診断を求めることがあります。」(三条四項)
「特定状態保険金は、事実の確認のため特に時日を要する場合のほか、その請求に必要な書類が会社の本社に到着した日(以下「請求日」という。)の翌日から起算して五日以内に会社の本社で支払います。」(三条五項)
2 右条項によれば、特定状態保険金の支払要件である「被保険者の余命が六か月以内と判断されるとき」の判断権者は会社(被告)であり、会社は、原則として、支払請求書に添付された医師の診断書に基づき、右要件の有無を判断し、請求日の翌日から起算して五日以内に会社の本社で支払をすることとされているから、右判断の基準時は請求日であると解される。つまり、会社は、請求日の時点で、医師の診断書に基づき、被保険者の余命が六か月以内と判断することができる場合に特定状態保険金を支払うことになる。
3 これを本件について見れば、原告からの請求日は、甲五によれば、平成一一年二月一七日と認められるから、被告は、同日を基準時としてその時点で原告の余命が六か月以内であるか否かを原則として甲五の医師の診断書に基づき判断すれば足りるところ、甲五によっては同日時点で原告の余命が六か月以内と判断することはできないというほかないから、原告の請求は特定状態保険金の支払要件を満足していないとして支払を拒否した被告の判断は正当というべきである。
4 リビング・ニーズ特約の趣旨は、被保険者の余命が六か月以内と判断される場合には、死亡後に死亡保険金の支払を受けるよりも、生前にこれに代わる特定状態保険金の支払を受け、これを残された人生を少しでも有意義に過ごすために活用することにあるから、特定状態保険金の支払要件具備の判断の基準時を請求日とすること(そして、請求日の翌日から起算して五日以内に支払がなされること)は、右趣旨に適うことになる。
5 本件では、原告の家族は、開腹腫瘤摘出手術を受ける前の段階で主治医から「このまま手術をしなければ、余命は三か月以内」との告知を受けたようであり(甲五、一二)、この段階で特定状態保険金の支払請求がなされておれば、あるいは要件具備の判断がなされた可能性があったかも知れないが、これは仮定論にすぎず、本件の結論を左右しない。
6 以上のとおりであり、原告の請求は理由がないから棄却する。
(裁判官 高柳輝雄)